正しく知ろう、 放射能・放射線(コラム)

2016年2月4日(木)16:46

 

放射能(放射性同位元素)から発せられる放射線の健康への影響について、世の中には様々な意見があります。放射能・放射線について正しく理解することは、私達一人一人にとって大切なことではないでしょうか。ここでは私が信頼できると思われる出典を基に、飯舘村の避難指示解除についてまとめてみました。なお、本稿は個別に表示する以外は復興庁資料【参考1】をもとに記述していますが、より詳しい理解のためにはそちらをご覧下さい。

(1)避難指示と放射線量
福島第一原子力発電所の事故直後に避難指示が出され、指示区域は何度かの見直しを経て、現在は次のようになっています。

区 域

放射線量 (ミリシーベルト/年)

規   制

帰還困難区域 50mSv/年を超える区域 原則立入り禁止、宿泊禁止
居住制限区域 20mSv/年~50mSv/年の区域 立入り可、一部事業活動可、宿泊原則禁止
避難指示解除準備区域 20mSv/年以下の区域 立入り可、事業活動可、宿泊原則禁止

これは国の原子力災害対策本部(本部長=内閣総理大臣)が国際的知見【参考2】をもとに、日本の状況に合わせて判断し、指示を出しているものです。
では、この放射線量がどこまで減少すれば避難指示が解除できるのでしょうか。上記対策本部が決めている解除の3要件は以下のとおりです。

①放射線の年間積算被ばく線量が20mSv以下
②日常生活に必須のインフラや生活関連サービスが概ね復旧し、子供の生活環境を中心とする除染が十分に進捗すること
③県、市町村、住民との協議

(2)放射線の健康への影響
強い放射線に被ばくするとガンの発生率(リスク)が増加すると言われますが、この“強い”というのはどの程度の強さを指すのでしょうか。
国際放射線防護委員会(ICRP)によると、科学的な知見の積み重ねから一度の瞬時の被ばく100mSv以上の被ばくにより発ガンリスクが増加するという立場から、年間被ばくの積算線量という考え方を採用して安全域を拡大し、定量的には年間100mSv(ミリシーベルト)を超えると、線量の増加とともにガンの発生率が高まると考えています。逆に、年間100mSv以下では、放射線を浴びた人と浴びない人とで、ガンの発生率に有意差が認められないとのことです。しかし、年間100mSv以下でも、直線的に被ばく線量に応じて発ガンリスクがあるという閾値無しの考え方で、放射線防護を考えています。これは、無益無用な被ばくを避けるためです。原子力委員会資料【参考3】に、更に詳しいリスク分析が掲載されていますので、一部を下記に抜粋しました。

 

身の回りの放射線による被ばくは平時では余り気にされません。しかし、放射線の健康影響を他のリスクと比較している上記の図を見ると、日常浴びる放射線より生活習慣因子の影響が極めて大きいことが読み取れ、私たちはもっと生活上の注意も必要です。

(3)飯舘村の放射線量の現状
当会が震災直後から支援活動を続けている福島県飯舘村の環境放射線量は、放射能の半減期からの自然低減と、除染の効果により、事故直後に比べ大幅に減少しています。飯舘村が定点測定しているデータから、この1年の変化の一例を見ると以下のとおりです。

飯舘村の放射線量測定結果の一例 -地上1mでの測定値-

(単位:μSv/時)

区 分

     地 区

2014.10.15.

2015.10.15.

宅 地

  草野字大師堂地内

     0.77*

     0.48*

  深谷字大森地内

     1.15

     1.08

農 地

  草野字大谷地地内

     1.14

     0.45*

  深谷字原前地内

     0.54*

     0.18*

出典:飯舘村発行「広報いいたて」  注:*は除染途中又は完了の意

避難指示解除の目安となる放射線量20mSv/年を通常の測定で用いられる1時間あたりに換算すると約3.8μSv/時になります(前提:屋外8時間、屋内16時間滞在、木造家屋の遮蔽率60%)。 飯舘村の測定値をこのものさしに照らして見ますと、既に解除の目安を大幅に下回っています。しかし、測定値は定点のサンプルであること、山林の除染は未着手であること、子どもは大人より注意が必要であることなどから、政府は十分な安全度を考慮して避難指示解除の判断をするものと思われます。
また前記のとおり、もう一つの解除判断の要件であるインフラや生活関連サービスの復旧が進むことと、被災住民との話合いなどが、非常に重要な要素となっています。

政府は、2017年3月までには帰還困難区域以外の地域の避難指示を解除することを目標としており、既に一部市町村では解除となったところもあります。飯舘村においても、村が策定した復興計画によりインフラや生活関連サービスの準備が進んでおり、環境モニタリングの結果を注視すると同時に、被災村民の意志を尊重しつつ、一日も早い避難指示解除が実現するよう願って止みません。
BHNは、村民の避難生活が少しでも健康的になるよう、今後も支援活動を行って参ります。

飯舘村避難者支援事業プロジェクトマネージャー
吉岡 義博(理事)

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【参考1】復興庁「放射線リスクに関する基礎的情報[平成27年10月版]」
【参考2】国際放射線防護委員会(ICRP)は、「各国政府は、原発事故など非常事態では年間20mSv~100mSvの範囲内で状況に応じて適切に、避難を含む放射線防護措置(中略)線量水準を選択・設定し(後略)」と勧告している。日本政府はこれを受けて、事故後最も厳しい20mSv/年を目安として避難指示区域を設定した。参考までにチェルノブイリにおいては、ソ連政府は事故後の初年度は100mSv/年を避難の基準とし、順次この避難基準を下げ,5年後に20mSv/年としている。
【参考3】第30回原子力委員会(H27.8.4.)資料  P13、P14

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