H30年度日本NGO連携無償資金協力によるエーヤワディ地域における防災支援,及び住民の保健衛生意識向上のためのモデル事業 第2年次 完了報告

2020年4月10日(金)14:14

 

当会はH30年度(2018年度) 外務省 日本NGO連携無償資金協力(以下N連)(注)の採択を受け、ミャンマー エーヤワディ―地域において2018年12月から支援活動を行っておりましたが、2019年12月にプロジェクトが完了しましたので紹介いたします。

 

(1) CAシステム

ミャンマーの南部デルタ地帯は、2008年5月の大型サイクロン「ナルギス」により死者・行方不明者13万8千人を超える甚大な被害を受けました。被害を大きくした要因として、ミャンマーでは官民の防災意識が低かったことや、警報システムやシェルター等の防災インフラが未整備だったことが挙げられ、特に農村部や貧困層の多く居住する地域における情報伝達システムの構築が急務とされました。

このため、当会では2008年(H20年)11月に支援事業としてスピーカを使った情報伝達システム(Community Addressing System 以下CAシステム)の設置を開始しました。支援事業は自主事業、ジャパンプラットフォーム助成事業を経てN連事業として現在に至っており、2017年度までの事業で243村落にCAシステムを設置しました。2018年度には新たに20村落に設置し、設置数の累計は263となりました。

このCAシステムが防災に役立った例を紹介しますと、ボガレイ郡Shwe Pyi Aye村では、ラジオで大きなサイクロンが村に向かっている情報を得て、CAシステムを使ってサイクロンの状況を伝えるとともにシェルターに村の全戸(230戸)の住民を避難させることができたそうです。また、ボガレイ郡の漁村のPan Phue Myit Tan村では、漁で遭難しないようにラジオの気象情報をCAシステムで村民に伝えています。

CAシステムは災害時の連絡だけでなく、役場の連絡放送や天気予報の放送等にも使用されており、住民の平常時の生活にも役立っています。1日3回放送を行って村の行事や役場からの連絡事項を伝えている村落もあります。また、デダイエ郡Kyone Kadu村では、気象情報を放送するときに流す曲を決めており、村人はこの曲が流れれば気象情報が放送されることがわかるため、CAシステムによる気象情報が村の生活に定着したものとなっています。

CAシステムによる支援は機器の設置のみでなく、ワークショップを開催し活用方法や保守方法の支援も行いました。ワークショップにはCAシステムを設置した各村落から代表者数人に参加してもらい、利用方法や保守方法ついての事例を紹介し、自身の村落の事情に適した方法を考えてもらいました。保守については機器の保守の方法に加え、交換部品の購入費等、保守に必要な費用をどのように確保するかについても考えてもらい、自立化を促しました。当会としても、本事業の成果の持続発展性のため、行政機関(中央官庁、エーヤワディ地方域政府、郡庁)にCAシステム設置村落への支援を要請しました。また、事業終了後も自己資金でモニタリングを行い自立化の支援を継続する予定です。

 

(2) ハザードマップ

CAシステムによる防災力向上の支援に加え、2015年度からはハザードマップの設置と防災研修を行っています。ハザードマップは村落ごとに作成され、災害発生時の危険区域、避難場所、避難経路等が示されており、2018年度事業では30村落に設置し、合計112の村落にハザードマップを設置しました。

防災研修はCAシステムのワークショップと同時に開催し、サイクロン、洪水、地震、津波、竜巻等による自然災害のメカニズムと避難方法について研修してもらいました。

これらの活動は日本のNGOであるSEEDS Asiaと提携して行いました。

 

(3) 保健衛生意識の向上

CAシステムによる防災支援を行うなかで、住民は保健衛生に対する意識がまだ低く、また医療サービスを受けることが非常に困難であることが分かりました。この地域は低湿地帯のため村から町への移動は舟の利用が大半であり、農村部では近くに診療所が無いため、診察を受けるには1~2日かかります。したがって、住民が保健衛生の知識を高め、病気を予防することが非常に大切です。このため、ミャンマーで保健関係の活動を行っているNGOのPHF(People’s Health Foundation)と提携し、2017年度からは住民の保健衛生意識の向上のための活動も行いました。

この活動では、モデル村落を選定し(2017年度 20村落、2018年度 20村落)、その村落の健康状況把握のためのベースライン調査を行いました。調査では2017年度と2018年度合わせて約5,500世帯、約23,000人のデータが得られ、報告書としてまとめられました。報告書は今後の医療行政に反映することにより、モデル村落だけでなくエーヤワディ地方の住民の保健衛生意識の向上が期待されます。

調査結果は保健衛生に関するメッセージ集の作成にも使われ、メッセージはCAシステムを使って放送され、村民の保健衛生意識の向上に役立てました。また、調査結果は村の集会所等で村民を集めて行った保健衛生の指導にも利用されました。2018年度事業ではモデル村落の20村落を5回訪問し延べ約4,000人の住民が指導を受けました。

保健衛生意識を高めるには子供への指導が効果的ですが、モデル村落のうち4村落の学校にテレビやDVDプレーヤ等を設置して視聴覚教育を行いました。初めての視聴覚授業に生徒は嬉しさにあふれて、画面を食い入るように見ていました。

本活動の総括として、2019年10月22日に報告会を開催しました。報告会には、エーヤワディ地方域知事および在ミャンマー日本大使館書記官を招き、BHNおよびPHF、地方域、タウンシップ(郡)、モデル村落等から保健衛生関係者約100人が参加しました。報告会ではテレビ局等のメディアからの取材を受け、関心の高さが伺えました。

2018年度事業でエーヤワディ―地域における当会のN連事業は終了しますが、当会が行った活動がきっかけとなって防災能力や保健衛生意識がさらに向上していくことを期待したいと思います。また、ほとんど外国人と接触する機会のないこの地域の住民とN連の事業を通じて交流できたので、今後日本に対して親近感を持ってもらえると期待しております。

 

最後に、本活動全般にわたって支援していただいたミャンマー商工会議所(UMFCCI : Union of Myanmar Federation of Chambers of Commerce and Industry)にお礼を申し上げます。

注:日本NGO連携無償資金協力は、日本の国際協力NGOが開発途上国・地域で実施する経済社会開発事業に外務省より必要な資金が供与される制度。

 

ミャンマー

 

支援活動を行った村落 (クリックでPDFが表示されます)

 

CAシステムの外観

 

スピーカの設置風景

 

CAシステム設置後に村民と記念撮影

 

CAシステムワークショップの模様

 

ハザードマップ設置後の説明会に集まった村民

 

PHFスタッフによる住民への保健衛生指導の模様

 

視聴覚授業に喜ぶ生徒たち(1)

 

視聴覚授業に喜ぶ生徒たち(2)

 

保健衛生意識の向上報告会の参加者

 

プロジェクトコーディネーター 片上 勘次

     

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