令和6年「BHN桑原基金寄付講座」 第5回講義:「医療におけるICT」
2024年5月27日(月)10:06
2024年度前学期 「SDGsを支える情報通信論」
2019年度に発足した本講座の6年目となる2024年度前学期の授業を、電気通信大学(以下、電通大)において対面授業で実施しています。
5月17日(金)は、BHN顧問である榑松 八平講師による講義が行われ、教室での参加9名の学生が受講しました。
講師:榑松 八平 氏 (BHN顧問)
●講義内容のタイトルと要点
タイトル:「Open up a New World Together by Medical ICT」
(医療ICTで “新たな世界、ともに拓く”)
今回の講義では、日本の社会的課題と具体的事例の紹介が医療最前線の豊富なスライドで紹介され、医療分野での課題に焦点を当て、その解決のための方法について解説がありました。
また、自然災害から学んだ地域医療ネットワークでは、遠隔医療システムの紹介と、日本各地で妊婦・乳幼児に対する遠隔医療システム(モバイル分娩監視装置、以下 iCTG) が実際に導入され活用されている具体的事例や、海外でのAPT(アジア・太平洋電気通信共同体)/JICA(国際協力機構) プロジェクト事例が動画を交えて紹介されました。
講義はすべて英語にて実施され、今回の講義ではネット動画も利用し、参加した学生達が熱心に視聴する姿が印象的でした。
本講義では、私たちを取り巻く様々な社会課題、[地球温暖化]、[未婚化・晩婚化による少子化]、[都市部では一人暮らし問題]、[高齢化と加齢に伴う認知能力の低下]等に対する認識について話され、
「2040年における日本社会は?」という予測が総務省の資料をもとに説明されました。
内容として、約15年後には以下の様な問題が想定されるとしています。
・医療費の増加、痴呆症の急増、介護要員の急増
・65歳以上の高齢者がピーク、独居老人の急上昇
・公共施設の老朽化と赤字交通サービスの廃止
・国内需要の縮小と国際競争力激化
・大都市圏以外での企業数の減少
そして、今後この様々な社会課題を解決すべく、主に「遠隔医療・オンライン医療」の観点から日本国内で実践している医療事例が数多く紹介されました。
1.日本における社会的課題
・自然災害から学んだ地域医療ネットワーク
・遠隔医療とは?
・遠隔医療・オンライン医療の現状
2.具体的事例紹介
・北海道:稚内クリニックと旭川医療大学246Kmをつなぐ遠隔診断のケース
・岩手県:盛岡市と宮城県:仙台市180Kmをつなぐ遠隔医療のケース
・岡山県:新見市での自宅健康モニタリング
・東京都と石川県:金沢市・内田町450Kmをつなぐ緊急救命のケース
・長野県:伊予市の車載オンライン健康診断システム
・岩手県:遠野市の健康増進ネットワーク事業
・東京都と香川県540KmをつなぐK-Mix(医療情報連携システム)
特に強調されたのは、以下の国立大学法人香川大学とメロディ・インターナショナル(株)の取り組みについてです。
香川県にあるメロディ・インターナショナル(株)で開発された、妊婦及び胎児のケアをするためのiCTGが、日本のみならず、タイやブータンにおいても大規模に導入され、その結果、妊産婦及び胎児の死亡率が大幅に改善されました。(UNDP(国連開発計画)/JICAブータン王国でのiCTG 導入)
iCTGの海外への展開として、APTを介して更に多くのアジア大洋州諸国、及びアフリカ諸国への普及を働きかけています。
JICAの保健分野での活動としてパレスチナにおける電子MCH(母子手帳)開発の事例も紹介されました。
最後の質疑応答では、石橋 孝一郎名誉教授(電通大)から「遠隔地で医療を行う際、現地に医師が少ない地域等は、医療従事者の負担が増えてしてしまうのではないでしょうか。それらの課題をどのように解決するのですか?」といった質問が出ました。
この質問に関して、「ICTを積極的に活用し、患者本人や関係者間での連携・共有・活用の仕組みを構築することで、課題を解決することができ、また、より高度な医療が必要な場合もJTTA(日本遠隔医療学会)やBHNを含む関係機関と大学と連携してネットワークを駆使し、データを共有して遠隔支援をすることで解決できます。」との回答がありました。
講義の締めとして次のメッセージが学生たちに贈られました。
“周産期医療を連携させて医療ICT及び電子MCHハンドブックを推進しよう。日本遠隔医療学会とBHNを核に、SDGs ICTプロジェクトを拡張していく。とにかくやってみよう。”
今年度も桑原基金寄付講座の前学期講義は4月から7月まで、後学期講義は10月から翌年1月まで実施され、8月上旬には技術見学会を実施する予定です。