東日本大震災による仮設住宅団地生活の回顧 長 純一医師を偲んで

2022年12月26日(月)12:47

 

BHN宮城事務所 山崎 信哉さんから現地レポートをお届けします。

 

色々な事情を抱えての被災者、とても書けるものではないが、経験した一端を記してみたい。

私は、2011年東日本大震災発災後、宮城県石巻市に建設された仮設住宅団地に関する活動(元石巻仮設住宅自治連合推進会長及び元石巻市仮設大橋団地自治会長)を長期間に渡って実施しました。更に、「未来へ、いのちをつなぐ石巻の会会長」を担当しました。

2011年3月11日(金)午後2時46分、規模М9.0、震度6強の地震により大津波発生、石巻市では13.2%の中心市街地全域が浸水、死者3,162人、行方不明者438人、全壊家屋2万棟を含む56,686棟の被害が発生しました。小生も自宅・貸家が全壊で仙台、富津、石巻を転々とし、6月に仮設大橋団地に入居しました。石巻市内に建設された仮設住宅団地134カ所それぞれにおいて特有の問題が起こりました。通路・床下の浸水、雨漏り、結露、カビ、騒音、駐車場、ごみ置場、アルコール依存、認知機能障害、閉じ籠り、隣人トラブル、生活苦、防火対策等々でした。

特に抽選入居による孤立への対応や高齢者の孤独死防止をテーマとして、地縁団体「石巻仮設住宅自治連合推進会※注1」を、四つの仮設住宅団地で組織化し、市・警察・消防署・社会福祉協議会、(一社)日本カーシェアリング協会、(公社)3.11みらいサポート石巻等の団体と連携して、月一回の会議を開催しました。活動を開始してから、加入する仮設住宅団地数は徐々に増えて42団地になりました。問題解決の取り組みに加えて、運動会・カラオケ大会・温泉旅行等々、心身の健康保持と情報交換の場も設けました。

仮設大橋団地自治会は2011年10月に設立し、翌年から夏祭りと芋煮大会を毎年実施し、日常的には年末年始とお盆期間の数日間を除いて毎日集会所を解放し、毎週月曜日のカラオケ・お茶っこ会を含めて住民の交流を図りました。当団地は最大時468世帯、1,150人と規模も大きく、地理的に市役所から近かったので、国内外からの視察・慰問訪問・取材等が多く、また立場上会議や打ち合わせ等も重なり合って毎日が本当に忙しかった。当自治会も役員の転出や百世帯を割ったので2017年4月末をもって解散し、以後連絡窓口として2019年3月まで世話係を務めました。

生活背景が大きく異なる人々が集まった仮設住宅団地のコミュニティは、価値観・生活習慣の多様性が大きいため、禁止用語・指示用語は極力避けて、依頼用語のみで、いい加減(按排)の対応で時間をかけて接しました。お陰で大きな問題も起こらず、約8年間の仮設住宅団地生活を終えることができました。今も時折仮設住宅団地での暮らしが楽しかったとの声が聞こえてくるとホッとする気分になります。改めて、これまでの国内外からの数多くのご支援に心から感謝を申し上げる次第です。

※注1)現在も一般社団法人石巻じちれんと名称変更し、被災者のみならずコミュニティ作りを支援しています。

 

2022年6月3日、被災者支援に尽力し、市の医療行政職として石巻に包括ケアシステムの構築を推進してくれた長 純一医師本人から「膵臓がんのステージ4、腹水貯留、臨床例から余命僅かであり,自らが構築してきた在宅医療を選び、最後に伝えておきたいことがある」と衝撃的な電話がありました。

翌日、小生が会長をしている【未来へ、いのちをつなぐ石巻の会、略称「つなぐ会」】の臨時役員会をもち,6月21日のオンラインでの公開発表・同時動画配信の準備、渉外担当の手配を決めました。本人自宅脇の事務所で役員複数名が当番制で渉外・家事雑事を担当しました。

6月21日の「長 純一さんから大切なお知らせがあります」と題したメッセージは50分間にわたり、あらゆる面での関係者への感謝、これまで実践して来たことやこれからへの思いの中で、子どもを社会全体で守り、育てていかないと日本の未来はない、未来の命を大事にする人々が増えて欲しい、石巻が光り輝くまちとして立ち上がってほしい等々を語ったが、そのわずか一週間後の6月28日15時38分自宅で逝去されました。

6月21日に56歳の誕生日を迎えたばかりでした。コロナ禍の時節柄、ご遺族は家内葬を提案されましたが、個人の社会的、公益的功績や人的関係を考慮し、ご遺族の了解のもと「つなぐ会」がコロナ対策を万全にして、7月1日「お別れ会」を実施しました。

東京都出身、奈良県育ち、信州大学医学部卒業後17年間佐久総合病院で、農村医療の父と言われた若月俊一医師に憧れて農村医療に取り組み、長野県川上村を日本一の在宅医療の村にしました。東日本大震災の2011年5月に長野県医療団長として石巻市に派遣され、翌年石巻市立病院開成仮診療所長に就任、石巻市包括ケアセンター長、石巻仮設住宅自治連合推進会理事、東北大学臨床教授の立場で第5回杉浦地域医療振興賞を受賞されました。

総合医療の中で、人のつながり・コミュニティ形成が重要と、研修医延べ300人を育てる中で被災者や患者の立場や状況を理解し、継続的に寄り添っての支援の姿勢と行動は、ぶれることなく24時間365日いつでも相談できる態勢を作ってくださり、仮設住民は勿論、住民から頼られ、世話役・自治会長を安心させてくださいました。

仮設大橋団地自治会では、夏祭りや秋の芋煮会を実施し、支援してくださる方々にもお礼の意味で案内したところ、毎回数名の研修医の方々と共に参加し、盆踊りへの参加や素晴らしい歌声で皆を楽しませ、焼きそば、おでん、かき氷等を購入してくれました。更に認知症やアルコール依存症等の予防や対応に関する啓蒙講演等もしてくださいました。また、「石巻仮設住宅自治連合推進会」の会議では、終了後も熱心に関係者と話し合いを続ける等の姿勢や、年度初めの支援金が途絶える端境期における会の運営資金援助(本人は講演謝礼金や表彰賞金を充てると言っていた)等々の行動力には本当に驚き、心から感動を覚えました。

被災者のみならず石巻市民に遺した多くの功績に報いるために、「つなぐ会」主催で「長 純一さんをしのぶ会」を2022年10月9日(日)に開催しました。地元の多くの関係者は勿論のこと、前任地の長野県からの関係者の方々をはじめ、全国からも関係者の皆さま方が参加され、改めてその偉大さを認識しました。

万感の想いを込めて哀悼の意をささげる次第です。合掌

 

 

BHN宮城事務所 山崎 信哉

 

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