「バックパックラジオ」プロジェクト

 毎年どこかで起きている噴火で苦しむインドネシアの人々のために、バックパックラジオを届け、災害時は早急に情報発信ができるよう備える、最新の減災・防災事業です。安価で簡易に持ち運びできる「バックパックラジオ」のコンセプトはAMARC(世界コミュニティ放送連盟 以下、AMARC)メンバーからも評価されており、2018年3月に実施したインドネシア・ジャワ島でのセミナーは成功裏に終了しました。合計8セットの提供も行ったこれらの機材は、早速その後発生したジャワ島中部地震、バリ島噴火等に際して有効活用されました。
 また、2018年11月に行われた、AMARCのアジア・パシフィック会議では、各国のコミュニティ放送局に対して「バックパックラジオ」のプレゼンテーションを実施しました。

事業名「バックパックラジオ」プロジェクト事業
対象者防災ラジオネットワークである”Jalin Merapi”に所属している9つのコミュニティ放送局エリアの住民達
対象地域インドネシア ジョグジャカルタ市ムラピ山
インドネシア バリ島アグン山

協力機関・団体協力機関
団体
インドネシアコミュニティ放送協会(JRKI)、インドネシア国家防災庁、アグン山防災無線ネットワーク組織の“Pasebaya”、ムラピ山周辺のコミュニティラジオ局7局(GEMA MERAPI・Geme FM・K FM・MMC FM・Geminastiti FM・Merapi FM・Lintas Merapi)
■背景1
ーー東日本大震災の教訓から:  被災状況・安否情報・生活情報等を入手する上で、とくに災害発生当初においてラジオが最も役立ったことが東日本大震災の教訓として示されている。ただし、被災地では社屋やスタジオが倒壊・損壊したり、送信機やアンテナが倒れたり、電線が寸断されるなどが原因で、放送できなかった放送局が多かった。また、業務用の放送設備の調達には300万円以上かかり、発展途上国にあまねく用意するにはコストの障壁が高いことから、アジア・太平洋の多くの国々がこのバックパックラジオに関心を示している。 

                  


総務省『平成24年版情報通信白書』より




●災害時、一番の情報源となったのはラジオでした。被災者に寄り添った活動の記録を綴った本のご紹介。
■背景2
低コストで災害現場に持ち込み可能なラジオ放送機材が普及すれば、災害時の対応がより強固になる。

ーー途上国視察の経験から 災害被害に遭った住民のための代替住居地域であるフィリピンのHENZA地域では、町長が携帯電話の修理による職能訓練ワークショップなどを主催したり、住民が洗濯や総菜提供ビジネス等を営んでいました。告知手段は張り紙や口コミで、避難所や仮設住宅は、震災直後から年単位の長期間にわたってコミュニティを形成していて、情報発信・交流手段の重要性が認められました。
また、インドネシアのNGOであるIDEPは有機農法や防災訓練を村々に周知するために、「まずは酒飲みに付き合う」といったやりかたを取ったり、人形劇によるドラマを製作する等、テクノロジーを導入するための方法に工夫を凝らしていました。

・プロジェクトポイント 
(1)災害対応力の向上
ワークショップには7局のコミュニティラジオ局スタッフが参加しました。それぞれのコミュニティラジオ局がある村の人口を合計すると、約29,000人です。本事業によって、この人々が、災害発生直後、本放送局が停止しても、安全な場所にバックパック放送局を開設してすぐに放送をスタートし、必要な情報を入手することが可能になりました。バックパックラジオからの適切な放送は、心を癒やし、二次災害を防ぎ、復旧・復興に貢献することでしょう。

(2)コミュニティの強靱化
バックパックラジオを非常時だけでなく、普段から活用していくための議論もまた活発に交わされました。噴火を想定した「避難訓練」はもちろん、「結婚式の出張放送」や「伝統楽器ガムランの演奏会放送」等、村ごとの行事を盛り上げていくことで、人々の絆を深め、困難に立ち向かうためのコミュニティづくりがより一層行われると期待できます。

(3)コミュニティラジオ局の安定化
スタッフは「電源をオン・オフすること」以上のさまざまな技術的知識を学ぶことができました。彼らが落雷被害を軽減し、機材を大事に使う事で、日頃の放送を安定的・恒常的に続けることができるようになるでしょう。

  • バックパックラジオ一式

  • バックパックラジオ機材8セット分のアンテナ

■活動

●「持ち運びができるコミュニティラジオ」を開発
 最も暮らしに身近な、市町村サイズのラジオ局を「コミュニティラジオ」と言います。日本では東日本大震災の際に最大で32局が臨時災害放送をおこない、復旧・復興に貢献しました。小さなラジオ局は、災害発生時の情報伝達手段として大きく注目されているのです。
  コミュニティラジオが特に盛んな国はインドネシアであり、各島各地域に合計1,000を超える放送局があると言われています。また、インドネシアは年間約2,000件もの大規模な自然災害が発生する災害多発国でもあります。2018年にバリ島のアグン山が噴火ました。BHNは、災害時にいち早くラジオ放送を始めるため、「リュックに背負って持ち運びができるラジオ局」として“バックパックラジオ”を若手プロボノメンバーと一緒に開発しました。
 これはアンテナ・FM送信機・バッテリー・ソーラーパネルで構成されており、10分で開局が可能で、専用のスマホアプリを用いてニュースや音楽を放送することができます。
 日本で業務用のラジオ放送機材一式を揃えるには300万円近い資金が必要ですが、このバックパックラジオはわずか500ドルで調達可能です。放送可能範囲は半径2,3kmと、小さなコミュニティのサイズをカバーします。2016年10月からインドネシアの"MMC FM"で、バックパックラジオを使った試験放送を始め、現地での実用性・耐久性が確認されました。

●クラウドファンディングにも挑戦
 2017年12月25日~1月31日まで、インドネシア・ムラピ山周辺地域のコミュニティラジオ局に、持ち運びできるラジオ局「バックパックラジオ」を提供し、放送スタッフにワークショップを行うという目的のためのクラウドファンディング“Ready for”に挑戦し、目標金額を大幅に超えるご寄附をいただきました。また、クラウドファンディングでのご寄附を使い、「ジャワ島中部バンジャルヌガラでの臨時災害放送」、「バリ島アグン山周辺地域での災害放送」で、災害FM局を設置し放送しました。

●「ジャワ島中部バンジャルヌガラでの臨時災害放送」

  • 「ジャワ島中部バンジャルヌガラでの臨時災害放送」

 2018年4月に発生した中部ジャワ地震の直後に、インドネシアコミュニティ放送協会(以下、JRKI)のスタッフがバイクで 7,8時間かけてバックパックラジオを運搬し、土砂崩れによって大きな被害を受けた Jemlung地域で臨時災害放送を行いました。
バックパックラジオの使い方を現地のボランティアスタッフにレクチャーし、避難者およそ150人に対して1カ月間、県防災局からの復旧に関する情報を放送し続けました。
 ●「バリ島アグン山周辺地域での災害放送」
  • バリ島アグン山周辺地域での災害放送

2018年9月、国家防災庁からJRKIに依頼があり、現地調査を踏まえて、バリ島アグン山の南北2カ所にバックパックラジオを使った災害FM局を設置しました。放送局を運営しているのはアグン山防災無線ネットワーク組の“Pasebaya”で、可聴範囲の人口は約3,000人。もともと無線を扱っているメンバーなので、放送機材の習得も早かった。JRKIは初回含めて3回渡航してフォローアップしました。
  現在は土日のみの放送で、午後3時から午後7時〜0時まで(終了時刻は変動)放送しています。放送しているのは山の状況や周辺環境の様子、音楽、トークショー等。
 ※飛行機ではバッテリーが運搬できなかったこと、現地で商用電源が確保できることから、ソーラーシステムは使わず、ACアダプタを別途購入して放送しています。

  • 現地住民へのワークショップの模様

  • バックパックラジオでの放送の実演の様子

■ワークショップの実施
 3月5日〜7日にかけて開催したワークショップには、噴火災害が多発するムラピ山周辺のコミュニティラジオ局7局(GEMA MERAPI・Geme FM・K FM・MMC FM・Geminastiti FM・MerapiFM・Lintas Merapi)と、 JRKIをはじめとする放送関係者の計30人が参加し、まずは、講義でラジオ放送やソーラー発電の仕組みを学び、そして実際に組み立て・放送・測定まで一通りを行います。完成したバックパックラジオ8台は現地に無償提供しました。
  バックパックラジオに関する座学・実技以外にも、インドネシアにおける過去の災害を振り返ったり、雷害対策についてのレクチャーをしたり、災害FMの制度化に向けて議論したりと、コミュニティラジオ局の力を総合的に高めることのできるワークショップとなりました。

●ワークショップの中身 - 平時にも訓練できるようにしておく -

①バックパックラジオについて
 ・ラジオ放送の技術的な仕組み
 ・バックパックラジオの組み立て方
 ・メンテナンスの仕方

②災害時の初動対応について
 ・被災地の状況把握
 ・現地への移動
 ・現地組織との連携

③避難所での放送局運営について
 ・受信機の配布
 ・情報収集と放送
 ・避難住民との交流

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